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ベリーダンスはどんな歴史があるかご存知ですか？

 

ベリーダンス（Belly dance、あるいはbellydance）は

中東およびその他のアラブ文化圏で発展したダンス・スタイルで、これらを位置づけるために造語された西洋の呼称です。

 

アラブ文化圏ではラクス・シャルキー

（Raqs Sharqi　رقص شرقي、「東方の踊り」の意）、ラクス・バラディー（Raqs Baladi　رقص بلدي 「民族舞踏」の意）として知られ、

トルコ語ではオルヤンタル・ダンス（Oryantal dansı、「東方舞踏」の意）として知られています。

特に「ラクス・シャルキー」と言う言葉の起源はエジプトであるとされます。

 

 

ヨーロッパでも「オリエンタル・ダンス」「ダンス・オリエンタル」「エキゾチック・オリエンタルダンス」

「オリエンタル・ベリーダンス」などの呼び名で知られ、アメリカ人の熱狂的なファンの中には単に「中東の踊り」と言えばこのベリーダンスを語る人もいます。

 

ベリーダンスはイスラム時代以前のエジプトより、口承に基づき伝授され知られてきました。

その起源は諸説存在しますが、地中海世界、中東、アフリカと関係があるという証拠が最も多く挙げられています。

例えば紀元前5世紀ほど昔のものといわれるエジプトの墓の壁画には、半裸のダンサー達が描かれており、 

その姿はベリーダンサーが鏡の前で行う柔軟体操の姿勢に似ています。

また、12世紀から13世紀にかけてのペルシアの細密画の中においてもベリーダンスの描写が見られ、その歴史の長さを思わせます。

 

中東以外の地域においては、18世紀から19世紀に掛けて勃興したロマン主義運動の高まりの中で、 

オリエンタリズムの芸術家達がオスマン帝国のハレムの生活を解釈して描いた絵画のなかに登場したことにより、一般的に知られました。

 

今日、中東諸国のダンサー達はさまざまな世界博覧会にてこのダンスを披露し始めるようになりました。

ダンサーたちの驚くべき技術と演技が衆目に公開され支持を受けたことにより、ベリーダンスは市民権を得始めました。

 

ダンサーの中には、映画化される者もおり、短編映画「Fatima’s Dance」（ファティマのダンス）は広くニコロデオン劇場で公開されました。

しかしそれは「破廉恥（“immodest”）」な活動であるという批判をまねき、結局公の圧力により検閲されることになってしまいました。

 

中東が西洋列強による植民地主義の対象となっていた時代、西洋の女性の中には中東のダンスを学び、模倣する者も現れました。

マタ・ハリが最も有名な例ですが、フランスの作家コレットもそうでした。

 

多くのミュージックホールのパフォーマーたちが「オリエンタルダンス」に従事していましたが、

時には彼女達の独自の解釈をやめ、本来の民間伝承的なスタイルに立ち返って行うこともありました。

 

偉大なダンサーと言われるルト・セイント・デニスもまた、中東の踊りにインスピレーションを受けたダンサーでした。 

しかし、彼女のダンスに対するアプローチは西欧舞踏であるバレエのコンテキスト上に異邦の舞踏・「オリエンタルダンス」をおくものであり、

彼女の目標はより優れた、敬意を払われるに値する舞踏を創出することにありました。（イスラム社会と同様1900年代初頭の欧米社会においても、

ダンサーの女性とはモラルに欠けた存在であるとして白眼視されていたためです）

 

歴史上、ベリーダンスに関連したほとんどのダンスは、「男は男と」「女は女と」というように性別によって分けられて行われていました。

男女混合のダンスは非常にまれな存在で、これは「良い女性」は夫以外の男性とは踊らず、

さもなくば近親か女性の仲間と一緒に踊るくらいしかないという習慣によるものでした。

この習慣は楽団にもおよび、女性の楽団員のみが女性のダンサーのために演奏を行うようになりました。

これは現在も多くの中東諸国で続いていますが、中には、プロのダンサーが楽団とともに女性の集まりに行き、女性達をダンスにかき立て、

それから水煙草の店の男性達のもとへ連れて行き男性客のいる宴会で披露するものもあります。

 

ベリーダンスは女性の肉体の「丸さ」「ふくよかさ」を前面に押し出したスタイルを採り、

痩身であることを良しとするダイエット嗜好とは対照的です。ベリーダンスで使用されるほとんどの基本的なステップやテクニックは、体の部分ごとに分かれた円運動で、腰や肩を床と平行に別々に動かします。

 

ベリーダンスにおいて「ポップ・ロック」は通常、ダンサーが「シミー」をしなかったときや腰や肩の動きを停止したとき、また柔軟性を生かした離れ業をする際のアクセントとして使用されます。

この動きによって腹筋を回転させバランスをとり、シフォンヴェールやシルクヴェールなどのさまざまな小道具を支え、籠や剣、鞭のように見せます。

 

ラクス・シャルキーは性別を問わず、通常は一人で観衆を楽しませるために演じられます。

ベリーダンス（belly=腹）と言う別名とは裏腹に、ラクス・シャルキーは身体全体の筋肉運動を用います。

運動によって表現される「語彙」を基礎に置きつつもその表現を推し進め、

音楽のリズムによってそれらの語彙を流動的に統合したダンスとされます。

 

踊り手は「ラクス・シャルキー」において、音楽が想起させる感情を内面に湛えたり表現します。

ここにおいて音楽はダンスの運動の「語彙」と統合されます。

 

最も尊敬すべきラクス・シャルキーのダンサーはダンスを通じて感情を投影できた者です。

 

たとえ、その動きの「語彙」がシンプルであっても音楽が観衆にもたらすリズムと感情を視覚的なレベルで伝えることが、ダンサーの目的です。

多くの人がラクス・シャルキーを官能に彩られた、成熟した女性の存在の力を表現するためのダンスとして見ます。

 

ソハイル・ザーキー、 フィフィ・アブドゥ、ルーシーとダイナ、 彼女達はみなエジプトでは人気のあるダンサーたちであり、40歳以上です。

この流派においては、若い踊り手はダンスを触媒にして何かを伝えるにはあまりにも乏しい人生経験しか有していないと考えている向きもあります。

 

エジプトにおいては、伝統的かつ主流の様式である３つのダンスがベリーダンスと深い関係を持ちます。Baladi、Sha’abi、そしてSharqiの3つです。

 

エジプトスタイルのベリーダンスは、サーミア・ガマールやターヒヤ・カリオカ、ナーイマ・アーケフと言った伝説的なベリーダンサーたちが創り上げた基礎に基づくものであり、他のダンサー達はエジプト映画産業の黄金時代と褒め称えています。

 

彼女たちの創り上げた基礎を部分的に継承した後発のダンサーとしては

ソハイル・ザーキー、フィフィ・アブドゥ、ナーグア・ファドが挙げられます。

1960年代から80年代にかけて活躍した彼女たちは現在も高い人気を誇り、先達とほとんど変わらない名声と影響力を得ています。

 

なお、エジプトのベリーダンスは西洋人が最初に見た様式とされます。

ナポレオンがエジプトに侵攻した際、ナポレオン軍はガワーズィー族と遭遇しました。

ガワーズィー族はプロフェッショナルな芸人集団として、音楽家として生計を立てていました。

売春を行う女性たちがいる一方で、ほとんどノマドの様な生活を送りつつも交易ルートを確立した街に居住しており、遭遇した当初、フランス人たちは重たげな宝石と髪型に飾り立てられた「野蛮な」踊りを見せる彼らの出現を嫌悪しました。

 

しかし、うっとりさせられるような彼らのダンスに自然と惹き付けられていくのにそう時間はかかりませんでした。

エジプト以外で、重要とされる様式を持つ国としてはトルコやシリア、レバノンが挙げられます。

 

トルコのオリエンタル・ダンスが「チフテテリ」として多くの人に信じられている誤解は、

ギリシャ人とジプシーたちがオリエンタル・ダンスの中にそれぞれの音楽様式を混ぜ合わせていった事実によるものであり、その事はギリシャ人がベリーダンスを「チフテテリ」と呼んでいた事からも説明できます。

 

しかし、トルコのチフェテテリはもっと正確には結婚式の民俗音楽の構成で、結婚式のダンスの陽気なパートで編成されたパートであり、オリエンタルダンスとは結びつきません。

 

トルコのベリーダンスはオスマン帝国のスルタンの宮殿にあるハレムに深いルーツを持ってはいましたが、

今日のトルコのベリーダンスは、エジプトやシリア、レバノンと言った「姉妹」様式よりもロマ民族やローマ人の様式により強く影響を受けた、

「オスマン帝国のラカス（rakkas）」から世界中に知られるオリエンタルダンスへと発展を遂げています。

 

トルコの法律は、エジプトのようにダンサーの踊りの様式や衣装に制限を課さなかった

（エジプトでのダンサーたちは舞台活動と腰回りを用いた特定の振り付けを禁じられていた）ため、

トルコのダンサーたちはエジプトのダンサーたちより表面上の表現手段がしばしば豊かである事も見受けられます。

 

また、トルコ・ダンスがローマ人のルーツに近いままなのは、

トルコ人のダンサーや音楽家たちがロマ民族の遺産をそのまま踏襲しているからです。

 

しかしながら、ローマ人の遺産を引き継ぐ人々もまたターキッシュ・オリエンタル・スタイルとは違う独自のスタイルを確立しています。

トルコ人ダンサーはエネルギッシュで強壮な（体操的ですらあった）スタイルと、

特にここ近年では、ジルと呼ばれるフィンガーシンバルの扱いに精通したダンサーとして知られています。

ターキッシュ・ダンスの目利きが、よく「ジルを上手く扱えないダンサーは熟練したダンサーではない」と言うほどです。

 

他に挙げられるターキッシュ・スタイル独自の要素としては、「12-34-56-789」とカウントする9/8拍子のカルシルマ・リズムが挙げられます。

ターキッシュ・ベリーダンスの衣装は肌を露わにしたものであり、ダンサーたちは腰より高い位置で留められたベルトに脚を完全に露出させるようなスリットの入ったスカートをしばしば身にまとっていましたが、今日のダンサーはエジプト・スタイルを想わせる、淑やかな「マーメイド」スタイルのスカートです。

 

ダンサーたちはハイヒールとプラットフォーム・シューズ(厚底靴)を履く事でさらに、ターキッシュ・スタイルである事を強調します。

 

トルコの有名なベリーダンサーとしてはテュレイ・カラカやビルグル・ベライが挙げられます。

トルコやイラン、アラブ諸国からの移民がニューヨークへと移住を始めた1930年代から1940年代に掛けて、

ダンサーたちはナイトクラブやレストランでそれぞれの踊りのスタイルをミックスしたダンスを披露し始めました。

 

よく「クラシック・キャバレー」や「アメリカン・キャバレー」と呼ばれたこれらのベリーダンス、

その踊り手はアナヒッド・ソフィアンやアルテミス・ムーアのように名手として現在名を知られている人々の祖母や曾祖母に当たる人々です。

 

「ベリー・ダンシング（お腹を使ったダンス）」と言う用語

（「Beledi」ないし「Baladi」と呼ばれたダンス・スタイルの用語を誤訳してしまったものと考えられる）は

1893年に開かれたシカゴ万博のディレクター、ソル・ブルームによって一般的に広められました。

 

しかし、ベリーダンサーそのものは1876年にフィラデルフィアで開かれた建国百年祭には存在していました。

アメリカ中から注目を浴びるようになるのは1893年です。

中東諸国や北アフリカ諸国からやって来た本場のダンサーの中にはシリアからやって来た者、

トルコやアルジェリアをルーツにも持つダンサーもいましたが、「ストリート・イン・カイロ」と名付けられたエジプト風の劇場で披露されたダンサーたちの（アメリカにおける）公演は凄まじいまでの悪でした。

素早いお尻の動きやコルセットを着けないダンサーがいると言う事は、ヴィクトリア朝の感覚が支配していた時代には衝撃的なものとして受け止められたのです。この事は男女隔離・性的自由への抑圧は決してイスラム社会に限定されるものではなく、キリスト教社会にも同様に存在していることを示しています。事実、アンソニー・カムストックを始めとする多数派によって「社会にとって抑制されるべき悪習の最たるもの」として攻撃を受けたエジプト・シアターは閉鎖に追い込まれています。

 

ですが一般に信じられているような「ファティマ」と言う名のダンサー、「リトル・エジプト」としても知られている踊り手がショーのノウハウを盗み、このダンス様式の普及に努めた…と言う主張を補強する証拠は何処にもありません。（ドナ・カールトン著:『Looking for Little Egypt』）

写真も、エジプト・シアターでの公演に言及した幾人かのレビューにもそのようなものはなく、

写真と同じように娯楽記事にもソロ・ダンサーは存在せず、単独でのダンスが存在しない一座としての公演を

エジプト・シアターで行ったとの記述が見受けられるのみです。

万国博覧会の後、このダンス・スタイルの流行に伴って模造品のベリー・ダンサーが何ダースと言う単位で生み出され、その多くが自らをシカゴ万博に出演したダンサーと自称しました。

ファリダ・マシャール・スピロポロス、またの名を「リトル・エジプト」として知られる最も有名なダンサーは、

万博後もアメリカに留まり「スピロポロス」と言う名のギリシャ人男性と結婚したと言われています。

奇妙な話ですが、彼女はエジプト人でもアルジェリア人でもなく、シリア人で中東からやって来たが、

万博の「ストリート・イン・カイロ」で踊っていたダンサーであると言う証拠がありません。

 

自らを「リトル・エジプト」と自称した多くのダンサーたちによって舞われたダンスは「Hootchy-Kootchy」や「Hoochee-Coochee」とあだ名され、

シミーと身体を震わせるスタイルが特徴でした。バーレスクのショーホールや祭りの余興などにおいて、

まがい物のダンサーによってベリーダンス本来の姿について文化的に誤った理解とその誤伝が広まったため、

西欧世界においてベリーダンスとはいかがわしく、エロティックな感情を連想させるダンスであると言うステレオタイプが（完全にそれが誤りとはいえないが）支配的です。ベリーダンスの別名である「danse du ventre」は、フランス語の原義に忠実に訳せば「お腹の踊り」と言うだけでなく、「欲望のダンス」ともなるのです。

ベリーダンスがそのような熱狂を作り出した理由として、トーマス・エジソンが1890年代に撮ったいくつかのフィルムの存在があります。

 

1898年に撮られたエラ・ローラと、1897年に撮影されたクリシー・シェリダンのターキッシュ・ダンスが含まれた映像は、両方ともアメリカ議会図書館に所蔵されオンラインでの閲覧が可能です。

他のコレクションとしては、 

1904年に撮られた「ジル（フィンガー・シンバル）」を操りながら「フロアー・ワーク（板張りの床の上で行うダンス）」をこなし、歯の上に椅子を乗せてバランスを取るプリンセス・ラジャの映像です。

加えて、自らをジャワ島からやって来た王女と偽り、第一次世界大戦中にドイツのスパイとして1917年フランス軍に処刑されたマタ・ハリが、ヴォードヴィルやバーレスクでベリーダンスを披露し政治家連中からいかがわしい評判を得ていた、と言うセンセーショナルな物語もあります。

 

ハリウッドはベリー・ダンサーにいくつかの役割を与えたのみで、

（解放奴隷の踊りであり、主演たちが会話している間のバックダンサーのための踊りであり、

トリックを用いてメインの登場人物を騙す役割の悪女に相応しい踊りであったりと言うような）

むしろベリーダンサーに対する偏見を助長させるような行動を取り、その名声や評判を手助けするようなことはありませんでした。

今日のダンサーやダンス講師たちがその偏見を打ち砕くのは大変でした。

多くの「偏見をそのまま信じる人」が「中東のダンス」としてこの芸術を挙げる最大の理由が、

このようにして醸成されたステレオタイプの存在に求められます。

 

西欧諸国において美しくクラシカルなラクス・シャルキーは根強い人気を誇っていますが、

多くのダンサーはインドや中東、北アフリカなどの民間伝承に拠って承継されているダンス様式やフラメンコにさえ刺激を受けて、

それぞれの民族としてのスタイルとアメリカの伝統スタイルを融合させたダンスを創造しています。

アメリカのダンサーはベリーダンスの起源に対して敬意を払いつつ、自らを表現するのに必要なダンスに取り組む中で、探求と創造を続けています。

現代のアメリカやヨーロッパの女性たちは、ベリーダンスを身体と精神、

そして霊魂を鍛錬し強化するツールとして捉えています。

自らの身体に対するイメージ、自尊心、性的暴行からの回復、女性としての同胞意識、

そして自己決定に関する問題は世界中に存在するベリーダンスの愛好者たちが真摯に取り組んでいる問題です。

 

1876年にフィラデルフィアで行われた建国百年祭においてアメリカでの日の目を見たベリーダンスは、

ベリーダンスの現在の流行は1950年代から1960年代にまで遡ります。

ニューヨークのような大都市のエスニック・ナイトクラブで、多くのアメリカ人はベリーダンスにより親しみはじめました。

これらのクラブはギリシャやトルコ、あるいはレバノンやシリアのような地中海沿岸諸国の民族集団に属する人々によって所有・経営され、支援されました。

この時、多くのダンサーがギリシャないしトルコをルーツとする者たちでしたが、 それと同様にアメリカ人も次第に数を増していきました。 

ひとつの例として、ニューヨークの「モロッコ」と呼ばれたダンサーは 

ギリシャタウンの8番街にあるナイトクラブでダンサーとしてのキャリアをスタートさせています。

彼女たち、アメリカ人ダンサーは自分たちのパトロンと同じようにギリシャ人やトルコ人のダンサーを見つめ、ダンスを模倣し、自らのダンスを磨いていきました。

 

1960年代後半から1970年代初頭にかけて、多くのベリーダンサーが上流階級のダンスとして自らのダンスを披露し始めました。

1960年代後半のアメリカ東部においてダンスの研鑽はより進み、多くの人々が東部の人々を虜にしたダンスに興味を持ち始めました。

中東出身や、アメリカ東部出身の人間で構成されたバンドがダンサーを引き連れて巡業することで、

音楽を視覚的に表現出来るこのダンスの爆発的ブームに一役買い、この巡業によってより強くベリーダンスに興味をかき立てるような美貌のダンサーたちが多く誕生しました。

 

そしてベリーダンス・ムーブメントの深化に伴って、他の名で呼ばれても差し支えなさそうなシンプルな流派がいくつも生まれ、お互いの差異化を図るため「違うダンス」を教え合うようなことになってしまったベリーダンサーの教師たちはひとつの「スタイル」を確立する必要に迫られました。

ベリーダンスをよりポピュラーなものとするための「スタイル」を創り上げることを妨げ続けた最大の問題は、

振り付けを教えることでダンサーを「再生産」出来るような確固とした方法論がアメリカにおいて見当たらなかったのです。

 

ベリーダンスが最も踊られるステージは依然としてナイトクラブであり

（ラクス・シャルキー風ダンスを収めたビデオやDVDの流通もまた同じでした）

「民族舞踏」スタイルや「社交ダンス」スタイルなどよりずっとポピュラーなものとして扱われていました。

ベリーダンスの衣装として現在連想されるものとして、（アラビア風やラクス・シャルキー風が知られているように）1930年代のエジプト・ダンサーたちが身にまとい、他の地域へと知れ渡っていった衣装が広く認知されています。

 

20世紀末の間中、ヴォードヴィルやバーレスク、ハリウッドといった「ハーレム幻想」を製品化するものたちは、実際に纏われている中東風のドレスよりそういう「幻想」を優先させました。カイロにあるナイトクラブのオーナー、バディア・マサブニは西洋人旅行者の期待に添うために、エジプトの民族衣装（身体の輪郭を覆い隠し、ダンスのたびに強調されるのはスカーフやお尻に巻かれたベルトくらい）よりも露出度の高いドレスを採用している話もあります。

この衣装の最大の見せ所は上半身に密着したブラジャー風のトップス（たいてい、ビーズかコインがブラの周辺に飾られている）、お尻に密着したベルト（やはりここにもビーズかコインが飾り付けられている）、そしてハーレム・パンツないしスカート（ストレートタイプだったり、サーキュラー・スカートだったり、

パネル飾りがあしらわれたスカートだったり）です。アメリカにおいてはダンサーの動きに沿って舞う、ダンスを構成する一部として3.5ヤードから4ヤードの長さで作られた「ヴェール」も着用されています。

 

1940年代のエジプト国王、ファールーク1世はロシアのバレエ講師・イヴァノワを娘のダンス教師に雇い、

彼女は偉大なダンサーであるサーミア・ガマルにヴェールを舞わせる腕の動きを更に改良するような所作を最初に教えました。

この結果、多くのエジプト・ダンサーが音楽の流れている間中ヴェールを使ったダンスを舞うようになりました。

 

エジプトにおいては、ナイトクラブのダンサーたちもまたビーズで全面を飾り立てた衣装を身に纏い、

「バラージ・ドレス（民族衣装）」と称してラクス・シャルキー風のルーティーンを踊るようになりました。

このような装いはアメリカやヨーロッパにおいて、

「キャンデラブラ・ダンス」と呼ばれる燭台を頭上に乗せて舞う民族舞踏を踊る際にも着られるようになりました。

 

アメリカにおける最近のムーブメントは「アメリカン・トライバル・スタイル（ATSとも略される）・ベリーダンス」と呼ばれるダンスによって、

民族舞踏にインスパイアされたダンスと北部インドや中東地域、

そしてアフリカの古代のダンス技法を融合させた「概括的」な表現を試みる所にあります。

1980年代末、キャロリーナ・ネリッキオ（彼女はサンフランシスコで『FatChanceBellyDance』と言う団体を創始してもいる）によって考案された

このダンス様式は、従うべきマナーの中にも即興性を盛り込んだ「ステップの持つ語彙」を内在させている様式として確立しました。

純粋な「ATS」はグループで踊られ、「ジル（フィンガーシンバル）」を伴奏楽器のように操りながらコーラスを歌う特徴を持ちます。 

ATSにおいて音楽は民族音楽・現代音楽を問わず、衣装も重ね着されありとあらゆる文化の影響を融合させた「伝統」を感じさせるものです。

 

西洋やアメリカのベリーダンスで形成され続けている他文化混合的な流行は、その活動を通じて今なお進行中です。

発展を続けながら、ベリーダンスは多彩な側面を持つダンスとして、モダン・ファッションや映画・テレビなどの発信するイメージ、ロックやヒップホップの世界観、アンダーグラウンド・サブカルチャーなど多様な要素が渾然一体となった現代文化を吸収し続けています。

 

このように雑多な様式を吸収したベリーダンスに対して、「トライバル・フュージョン（民族文化融合）」と言う意味も含めた「ベリーダンス・フュージョン」と言う大ざっぱな表現を与えることも出来ます。 

現在、最先端を行く「ベリーダンス・フュージョン」のひとつ として、多くのベリーダンスの様式やモチーフを混ぜ合わせ、そしてゴシック音楽や哲学、あるいはゴシックの生活様式などからインスピレーションを受けた、「未知の闇」を表現する方法を探求する「ゴシック・ベリーダンス」があります。

 

ベリーダンスの世界においては、男性がいつ、どこでこのダンスを踊り始めたか…がよく論議の的になります。 

多くの人は男性がこの芸術様式に占める場所などなく、歴史的に見ても女性のダンスであるという誤った認識があります。 

しかしながら、モロッコのダンサー（カロリーナ・ヴァルガ=ディニク）やタリク・スルタン、ジャスミン・ジャハルと言ったダンサーたちがそれとは逆の証拠を大量に示しています。

 

中東をルーツとしない多くの人々はプロのナイトクラブ・ダンサーに関してはよく知っていますが、

彼らの踊りそのものに対しては「ダンスのルーツとなった地域においてはダンスの活動的な側面など僅かな一部分でしかない」とみなしています。 

実際、多くのダンスが男女間の社会的な文脈と絡めて捉えられます。現代のプロ・ダンサーはもっぱら女性がその座を独占していますが、

そのようなケースだけではダンスが女性本位のものである事を示せないとする多くの証拠が存在しています。

 

トルコに存在する細密画は「絵の証拠」であり、オスマン帝国の成立中にはキョチェク (Köçek) と呼ばれる若い男や少年のダンサーたちが公演していた様子が描かれています。彼らは大変良く知られた存在であり、 

実際に帝国のスルタンが女性ダンサーの一座に加えて男性ダンサーの一座を雇っています。（メティン・アンド著:A pictorial history of Turkish Dance）

彼らは広がるようなフラムボヤント・スカートに身を包んで踊りを披露したため、女装しているものと長らく憶測されてきました。

しかしながら女性ダンサーと比較しても、この衣装は（女装が目的ではなく）織物の渦巻き文様によってドラマティックな効果を引き出すために着用されているにすぎない、と見てとれます。女性ダンサーはこの時特別な衣装を着ていませんが、全ての女性が「ハーレム・パンツ」とロングスカートからなる服装に、ベルトかショールで風になびくローブを腰の辺りで留めてぴったりとしたベストを覆わせた、普段通りのドレスを着ています。

それにもかかわらず、このうちの何人かの男性ダンサーは女装をしているように見えます。

ダンサーは音楽家や役者と同じように、それほど単純には捉えられないことが理由に挙げられ、 

シェイクスピアの時代と同じように、女性が公共の場で役者を演じることが許されなかった時代では全てのドラマティックな役柄を男性が演じていました。

 

当時最高と謳われたダンサー一座が、そういった慣習をしばしば破ろうと奮闘しました。

そのうねりは1830年代終わり頃までそのようなパフォーマンスを禁じられてきた当然の帰結として、しばしば起こりました。

結果として一座は自らの名を上げましたが、オスマン帝国は斜陽を迎え、それと共に押し進められた近代化と西欧趣味の摂取が、他の帝国やエジプトなどと同じようにイスタンブールの彼らのパフォーマンスの衰退を導いていきました。

 

その波は、「観光客の希望」という大義名分のもと、彼らが本来占めていた場所を女性ダンサーに取って代わられる事態を押し進めていきました。

コチェック・ダンサーはトルコの田園地帯や、特にカスタマンズ地方でまだ見ることが出来ます。

彼らはテレビのバラエティ・ショーやDVDに出演することでトルコ中にその存在をアピールし始めています。

 

アラビア地域でラクス・シャルキーと呼ばれるダンス様式の、現在の「プロフェッショナル・バージョン」は

1930年代にエジプトで生み出されました。女性的で優雅な美しさとグラマーさの理想的な形式を表現するために、 細心の注意が払われた形式となっています。男性ダンサーもまた、ラクス・シャルキーの発展から遠いようなシーンでも踊り続けています。

振り付け師として、ダンス教師として高い名声を得ているダンサーとしてはイブラヒム・ アーケフ（有名なダンサー、ナーイマ・アーケフの従兄弟に当たる）や

マハムッド・レーダ（エジプトで有名なレーダ劇場のダンサー一座の創設者）などがいます。

 

男性ベリーダンサーにおけるダンス形式の現在の流行は、イブラヒム・ファラ（ベンシルバニア生まれのレバノン系アメリカ人）、バート・バラディン、ジョン・コンプトンや他何人かのダンサーやダンス教師によって1960年代から1970年代に掛けてのアメリカで始まったものです。今日、男性ベリーダンサーはアメリカのみならず世界各国でその姿を目にするようになりました。

彼ら、現代のダンサーたちはギリシャやトルコ、レバノンやエジプトと言った中東文化の色濃い地域にも出現し始めています。

多くの男性ダンサーが社会的な挑戦と同じレベルで、芸術的なアプローチにも向き合った活動を繰り広げています。

 

衣装の違いや振る舞いの違い、そして男女ダンサー間での議論の対象となっている男女ダンサーに存在する振り付けのダイナミズムの違い、そういう問題は「存在している」のか「存在する問題として捉えるべき」なのでしょうか。

 

ベリーダンスについての最近のブームで興味深いもののひとつとして、新世代の男性ダンサーが「（女性の）様式」をよく取り入れていることが挙げられます。

自らを女性ダンサーと対になる者として比較する向きは未だ少数派ですが、

20年ほど前から彼らはその数を劇的に増加させています。ほとんどの現代ダンサーや熱狂的なファンはその事に気付いていませんが、歴史的にも文化的にも男性のダンスの方が女性のダンスよりも先に存在しており、多くの者たちがベリーダンスに馴染みやすい理由が多くあります。

 

自らの妻やガールフレンドがダンサーであったりダンスを習っていたり、創造性を楽しんで表現するのに適していると考えているからであり、

正統性のある芸術様式やそれに類する芸術として皆に親しまれているダンスであると考えられているからです。

女性ダンサーと共に踊る者として、多くの「新世代」男性ダンサーが舞台上ではひとつの芸名を名乗っています。

 

1970年代前半のアメリカやラテン・アメリカ圏で良く知られた男性ダンサーとしてはバート・バラディン、ジョン・コンプトン、セルヒオ、オラシオ・チフェンテス、アミール・オブ・ボストン、アダム・バスマ、イブラヒム・ファラ、ジョシュリィ・シャリフ、アジズ、カマール、アミール・サリブ、ジム・ボズ、そしてタリク・スルタンが挙げられます。彼らのうち何人かはアメリカ生まれであり、他にも中東やヨーロッパからの移民がいました。例えばアダム・バスマはロンドン生まれです。ジョシュリィ・シャリフ（エジプト生まれであり、1990年代初頭にアメリカへと移住してきた）はレダ楽団のメンバーであり、当初はエジプト国立舞踏楽団のメンバーでした。

マハムッド・レダが指揮し、エジプトの体操オリンピック代表選手だったメンバーで構成されるレダ楽団は既に40年以上に渡って活動を続けています。他の男性ベリーダンサーはこのダンス様式に衝撃を受けました。特に、現在はドイツに移住し自らのバレエダンサーとしての知識を背景に、中東舞踏の様々な形式にバレエ様式を吹き込むダンスを創造し、ダンサーの性別を問わず大きな衝撃を巻き起こしたオラシオ・チフェンテスがその筆頭として挙げられます。

 

ニューヨークのタリク・スルタンはダンスにおいて男性が果たした歴史的役割に付いての文章を上梓し、大きな貢献をもたらしています。

彼の文章である「Oriental Dance, it isn’t just for women any more」は 

このテーマに関して歴史的かつ文化的な性格を備えた、正確無比な文献のひとつとして挙げられます。

「Choreophobia」の著者であるアントニー・シェイ博士も「The Male Dancer」という自らの著書の中で、

『ダンスとはまさに女性のものであり、男性ダンサーは女性ダンサーの模倣に過ぎない』という作り話の打破に挑んでいます。 

シェイ博士は、中東のベリーダンス・シーンにおいては男性が社会的なレベルのみならずプロフェッショナルな舞台の上でも同様に、現在も活躍している事を示すために歴史的かつ文化的な論拠を著書内で提示しています。

 

紅海のリゾート地、シャム・イル・シェイクで活動するエジプト人男性ダンサー、チト・セイフは世界でもずば抜けた技術を持つダンサーである、という認識を勝ち得ています。  

ベリーダンスを「女性の力を表現するもの」として捉える人々や、ダンスをプロフェッショナルな「女性の仕事」として捉える人々で形成されるコミュニティから時折巻き起こる反論にも拘わらず、世界の男性ダンサーの多くはダンスを楽しみ、その受容に力を尽くしています。

 

ベリーダンスのもたらす恩恵は精神にも健康にも存在します。ダンスは心肺能力によい働きをもたらし、身体の柔軟性と強靱さを増強させ、胴体や「コア・マッスル（体幹）」を引き締め、脚の筋力形成にもよい影響をもたらします。

 

多くのベリーダンス・スタイルは筋肉の「孤立した動き」を強調するため、ダンスを学ぶことで様々な筋肉や独立した筋肉系統の動かし方を習得出来ます。

 

ヴェールを使ったダンスは腕や肩、他の上半身の筋肉を鍛えることに繋がり、ジルの演奏は筋力強化と指一本一本をバラバラに動かす事にも繋がります。

ベリーダンスは全ての年齢・体型に適したダンスであり、参加する人に応じて肉体的な負荷を選択出来ます。

 

どんな新しいルーティンの運動を始めるときもそうですが、ベリーダンスを始める前にはベリーダンスのインストラクターと自分がこなせる難易度について話をしておくとよいです。

 

（普段から活動的な人より座りっぱなしな生活を送っている人の方が難しいです）

 

多くのベリーダンサーが、その感覚の向上や自らの身体に対するイメージ・自己評価の向上、

 

そして規則正しいルーティーンによってもたらされる前向きな見通しを、練習を楽しくこなすことによって得ていけます。

 

またベリーダンスの運動は腰周りの筋肉を力強く調和させ、女性はそれを通じて自らの筋肉の働きをよりよく理解し、女性の出産に恩恵をもたらす、という効果もあります。

 

ダンスに使われるお尻の円運動は出産による疲労感を幾分か和らげるかもしれません。

 

ベリーダンスは幾つかの司法権において禁止、あるいは制限を受けてきました。

 

エジプトでは外国のベリーダンサーに関する禁止令が存在し、1年間続いたものの、2004年9月には法令そのものが覆されました。

 

パレスチナ暫定自治政府の新任の文化大臣、アタラー・アブ・アル＝シルバは、ベリーダンスを法令で禁止する計画があることを表明しました。

 

扇情的な動きがダンスに相応しいとは考えないプロのダンサーは、「ベリーダンサー」と称されるダンサーを含め、  ミュージック・ビデオに憤慨します。そしてしばしば、それらが技術に乏しく、その動作が過剰に性的であると考えます。 

プロのベリーダンサーは大抵、こうしたものを「ベリーダンスにインスピレーションを受けたもの」と呼びます。

R&Bシンガーのアリーヤは自らの象徴的な動作として、「ベリーロール」と称するベリーダンスを用いており、彼女の多くのミュージック・ビデオの特色です。 

最近では、ベリーダンスとラテンアメリカやモダン・ダンスのスタイルを組み合わせて踊るシャキーラによってベリーダンスは広く知られるようになりました。 彼女の民族的素地の一部であるレバノン系の血が、彼女のベリーダンス・スタイルに強く影響しています。

他にもビヨンセやリアーナ、ネリー・ファータドやジェシカ・シンプソンなどのシンガーたちも自らのミュージック・ビデオにベリーダンスの要素を取り入れています。

 

●日本でのベリーダンスは？

 

日本ではベリーダンスが広まってきているとはいえまだまだわずかです。

健康、ダイエット、趣味などに最適だという小さな小さな流れのなかで少しずつ受け入れ楽しもうとしています。

海外から取り入れた衣装や小道具などでステージづくりをするとサイズが合わず苦労するので

日本人女性の体型に合わせた衣装を求め、体型に合わせて工夫することもあります。

日本にはなかったダンスのため憧れを抱き踊ってみたいという女性たちも多く、

他国の文化をうまく自分たちに取り入れる日本人の器用さで身体の動き、衣装選び、ステージ創りがされています。

ベリーダンス衣装専門店ココベリーはベリーダンスを楽しみたい女性たちに、日本人らしいかわいらしさも取り入れたデザインと身体に合わせた衣装を提案しております。